トップページ > 交通事故 > 盗難車両の事故
盗難車両によって交通事故の被害を受けた場合, 誰に損害賠償できるのでしょうか。
まず,加害者に対して損害賠償請求することができます。また政府の自動車損害賠償保障事業という被害者救済制度があります。
盗難車両の事故の場合において,加害者を特定できたとしても,資力不足の場合が多く,損害賠償をしてもらうことが事実上困難となることがあります。
そのような被害者を救済するための制度として「政府の自動車損害賠償保障事業」という制度があります(自賠責法71条以下)。
この制度によれば,被害者に対するてん補金の限度額等は,自賠責保険による場合と同様となります。もっとも,支払時期,仮渡金,時効の中断等については相違があります。
盗難車両の事故だけでなく,無保険車による事故,加害者及び加害車両が不明の事故(ひき逃げ)の場合も政府の自動車損害賠償保障事業の対象となります。
車の所有者に対しては,自動車の管理について重大な過失があったような場合には責任追及できる可能性があります。
具体的には,車両管理状態及び事故の状況により,運行供用者責任があるかどうかの判断がなされると思われます。
運行供用者責任を肯定した裁判例 本件車両を停めていた駐車場は、民宿の駐車場として利用され、国道に面し、周囲を囲むフェンスや壁もなかったことから、だれもが、駐車場内の車両を容易に発見でき、自由に出入りすることができた。それにもかかわらず、使用者は、夜間、数時間以上、キーを付けたまま、ドアのロックもしないで、本件車両を停めていた。したがって、使用者及び所有者は、本件車両の管理を怠った過失があるというべきである。また、本件車両が窃取されてから、約二時間半後に、約一二一kmを走行後、本件事故が発生しており、窃取後間もなく事故が発生したとはいえないまでも、窃取から近接した時間と場所で本件事故が発生したということができる。これらの事実によれば、本件車両の保有者は、本件車両の管理を怠った過失があり、窃取後近接した時間と場所において本件事故が発生しているから、本件事故について運行供用者責任を負うと認めることが相当である(大阪地裁 H13.1.19)。
運行供用者責任を否定した裁判例 本件事故当時乙車を運転していたAは、控訴人Bとは人的関係の全くない第三者であつて、乙車を専ら自己の用務に使用した上乗り捨てる意思で窃取したものであり、本件事故は、Aが乙車を窃取してから約一八時間後に発生したもののであり、しかも、Aは、その間運転を継続していたものではなく、Aの運転は、睡眠等のために数回中断していたものであり、また、本件事故現場は、乙車が窃取されたX市内から六〇キロメートル以上も離れたY市で発生しているものであつて、右認定の事実関係の下においては、たとい、控訴人Bに乙車の管理に万全を尽くしていなかつたということがありうるとしても、本件事故当時、乙車の運行を支配していたのはAであつて控訴人Bはそれを支配制御しうる地位にはなく、また、その運行利益も控訴人Bには帰属していなかつたものと認めるべきである(札幌高裁 S59.5.31)