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自賠責保険制度は自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合に損害賠償を保証する制度(自賠法1条)です。
その対象は人身事故に限定され、 物損事故は除外されます。
このページでは、自賠責保険の支払基準について説明をします。
当然のことではありますが、交通事故の加害者が、任意保険に加入していない場合、 相手が無資力なときは、自賠責保険の限度額による補償しか受けられないことになってしまいます。
自動車損害賠償保障法(支払基準) 第16条の3
保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。
傷害による損害は、
です。
治療関係費
応急手当費 | 応急手当に直接かかる必要かつ妥当な実費 |
---|---|
診察料 | 初診料、再診料又は往診料にかかる必要かつ妥当な実費 |
入院料 | 原則として普通病室への入院に必要かつ妥当な実費
医師が必要と認めた場合は、 |
投薬料、手術料等 | 治療のために必要かつ妥当な実費 |
通院費、入院費等 | 通院、転院、入院又は退院に要する 交通費として必要かつ妥当な実費 |
看護料 (入院中の看護料) |
12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合に |
看護料 | 必要かつ妥当な実費、又は、近親者等 ※医師が看護の必要性を認めた場合 |
諸雑費 | 入院中の諸雑費は、入院1日につき1,100円 通院又は自宅療養中の諸雑費は必要かつ妥当な実費 |
柔道整復等の費用 | 免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、 はり師、きゅう師が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費 |
義肢等の費用 |
医師が必要と認めた義肢、歯科補てつ、
義眼、 ※眼鏡(コンタクトレンズ)の費用は、50,000円を限度 |
診断書等の費用 | 診断書、診療報酬明細書等の発行に必要かつ妥当な実費 |
文書料
交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行に必要かつ妥当な実費
その他の費用
(1)治療関係費及び(2)文書料以外の損害であって事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用等については、必要かつ妥当な実費
(1) 休業による収入の減少があった場合又は有給休暇を使用した場合に、1日につき原則として5,700円。 ただし、家事従事者については、休業 による収入の減少があったものとみなす。
(2) 休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とする
(3) 立証資料等により1日につき5,700円を超えることが明らかな場合、19,000円を限度として実額
(1) 慰謝料は、1日につき4,200円
(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。
(3) 妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料を認める。
後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等です。
基本的には、年間収入相当額を所定の方法により算出し、 労働能力喪失率と就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出する(詳細は省略)。
【年間収入相当額】×【労働能力喪失率】×【労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】
(1) 後遺障害に対する慰謝料等の額は、該当等級ごとに次に掲げる表の金額とする。
別表1 介護を要する後遺障害
第1級 |
第2級 |
---|---|
1600万円 |
1163万円 |
※被扶養者がいるときは、第1級については1800万円とし、第2級については1333万円。 ※別表第1に該当する場合は、初期費用等として、第1級には500万円を、第2級には205万円を加算する。
別表2 後遺障害
第1級 |
第2級 |
第3級 |
第4級 |
第5級 |
第6級 |
第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
1100万円 |
958万円 |
829万円 |
712万円 |
599万円 |
498万円 |
409万円 |
第8級 |
第9級 |
第10級 |
第11級 |
第12級 |
第13級 |
第14級 |
324万円 |
245万円 |
187万円 |
135万円 |
93万円 |
57万円 |
32万円 |
※第1級、第2級又は第3級の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級については1300万円とし、 第2級につ いては1128万円とし、第3級については973万円とする。
死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料となります。
(1) 葬儀費は、60万円とする。 (2) 立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合は、100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費とする。
基本的な考え方としては、年間収入額から本人の生活費を控除し、 死亡時年齢の就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出する(詳細は省略)。
【基礎収入】×【1-生活費控除率】×【就労可能年数に対応するライプニッツ係数】
死亡本人の慰謝料は350万円とする。
慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子
請求権者1人の場合 | 550万円 |
---|---|
請求権者2人の場合 | 650万円 |
請求権者3人以上の場合 | 750万円 |
※被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算 |
死亡に至るまでの傷害による損害は、積極損害、休業損害及び慰謝料とし、第2傷害による損害の基準を準用する。ただし、事故当日又は事故翌日死亡の場合は、積極損害のみとする。
1 重大な過失による減額
減額適用上の被害者の過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害又は死亡に係るもの | 傷害に係るもの | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
2 受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合の減額
被害者が既往症等を有しており、因果関係の有無の判断が困難な場合は、5割の減額
自賠責保険では、過失70%未満の場合は損害賠償額を減額されません。また、交通事故と後遺障害との間について、因果関係の判断が困難な場合でも、50%は受け取れます。これは、裁判基準より有利な規定です。被害者の過失が大きいケース、因果関係の立証が困難なケースでは、訴訟を提起せずに自賠責の被害者請求とするという作戦も検討する価値があります。
一定の要件下、被害者は保険会社に対し仮渡金を支払うべきことを請求することができます。仮渡金の請求は1回のみです。仮渡金は、損害賠償額の一部であるので、将来の示談交渉時には、既払額として全損害額から控除されます。万一、損害賠償額が仮渡金の額を下回るようなことがあれば、差額について返還する必要が生じます。
自動車損害賠償保障法 第17条 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、 政令で定める金額を第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
具体的な金額は、死亡の場合290万円、 傷害の場合は40万円、20万円又は5万円(傷害の程度により異なる)。
任意保険では家族免責が規定されていると思います。 これは、家族に対する損害賠償請求を保険によって補填するならばモラルリスクの危険が生じうるからです。 もっとも、自賠責保険では「妻は他人」とする趣旨の判例があります。
自賠法三条は、自己のため自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という。)および運転者以外の者を他人といつているのであつて、被害者が運行供用者の配偶者等であるからといつて、そのことだけで、かかる被害者が右にいう他人に当らないと解すべき論拠はなく、具体的な事実関係のもとにおいて、かかる被害者が他人に当るかどうかを判断すべきである(最高裁S47.5.30)
この判例の事案は、夫の運転する自動車に妻が同乗していて怪我をしたというものです。裁判では、具体的な事実関係をもとにし、妻を他人として判断しました。
この事案では、自動車の運転・管理は専ら夫が行い、妻は運転免許も取得してないという事実が認定されています。
このように、任意保険での請求が難しい場合でも、具体的な事情を考慮したうえで、自賠責保険の請求が認められる可能性もあります。