紹介する裁判例は、自転車を運転する成年者と歩行者である高齢者との衝突事故である(大阪高裁平成23年8月26日)。 なお、事案の概要等については、事故当事者に配慮するため、可能な限り抽象化して照会することとする。
Y(14歳)の運転する自転車と、歩行者X(85歳)が衝突。Yは胸椎及び腰椎の圧迫骨折等の傷害をおった。
そこで、XはY及びY両親に対して約900万円を損害賠償として請求した。
これに対し、Yらは、不法行為責任の有無及び損害等について争った。
特に大きな争点としては、Y両親について不法行為が成立するかである。
一部認容として、Yに対して約270万円を支払うよう命じた。
しかし、Y両親に対する不法行為責任については否定した。
Yは,歩道がなく路側帯のみが設置された本件道路の路側帯内を自転車で進行する場合は,進路前方を注視し,歩行者の有無及びその安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのに,これを怠り,終始右側を脇見しながら約10メートルにわたり本件自転車を運転し,路側帯内で佇立していたXに衝突するまで気付かなかったのであり,しかも,被害者であるXは,自転車運転者が道路側端を通行する場合に,その動向に最大の注意を払い,その安全を脅かさないように慎重な運転を求められている高齢者(本件事故当時85歳)であったのだから,Yには本件事故の発生について重大な過失があった。
本件事故当時,Yは中学2年生(14歳)であり,Xは,Yの体が大きいので,Yを大学生と間違えた程であるところ,Yは,その1年数か月後に高等学校に進学しており,心身ともに平均以上の成長を見せていたものであることが認められる。したがって,Yについては,民事上の責任能力が優に認められる。
請求棄却。Y親に対しての損害賠償請求は認められなかった。
理由は、Xにから具体的な主張・立証がなされなかったとしている。
Y両親から見て,本件事故当時,Yが,①社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り,又は容易に知ることができたことや,②他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り,そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて,Xは具体的な主張,立証をしていないことから、Y両親について,Yの自転車運転に関する危険防止のための具体的な指導監督義務を認めることができない。
本件事案では、約900万円の請求に対して、一部認容判決がなされている。
しかし、Yは事件当時14歳であり、資力を有しているとは考えられない。それゆえ、Yに対して債務名義を取得しても絵に描いた餅になってしまう可能性が高いとも思われる。
自転車事故は、未成年者による事故が多く、最終的には両親に対して責任追及するほか仕方ない。
しかし、その場合でも、どのような事実を主張し責任追及するのかは非常に難しい問題といえる。 また、後遺障害認定の制度がないため、後遺障害を負ったとする立証が困難になるともいえる。
自転車事故が増加する今日、自転車に対する強制保険制度、自転車事故に対する後遺障害認定の制度等を早急に整備する必要があると思われる。
なお、当事務所ホームページでは、自転車事故に関する説明のページもあります。
片岸法律事務所では自転車事故の損賠賠償事件の相談をお聞きしております。